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【英語】認知言語学から見る、単語と文法の学習ばかりやっていてはダメな理由

こんにちは、広島市の四技能型・英検対策の英語塾、スクール今西の今西一太と申します。

John R. Taylor という人の書いた The Mental Corpus: How Language is Represented in the Mind. という本を読んでいます。認知意味論と呼ばれる分野の専門書なので詳細の説明は避けますが、英語学習にも示唆に富む内容がありましたので一部を取り上げてみようと思います。

1.「言語=文法+単語」という考え方

本の中で、言語というものがどうやって成り立っているかとして、

言語=単語+文法

という一般的な認識が挙げられています。

これはつまり、言語というのは単語があって、それを文法という規則によって組み合わせることでできてくるものだ、という認識です。例えば

単語:「本」「難しい」
文法:「形容詞+名詞=名詞句」

以上の単語と文法を組み合わせると

言語:「難しい本」(名詞句)

という正しい言語が生み出される、ということです。

とてもよくある、一般的な考え方ですよね。

この認識に基づくと、英語をマスターするためには単語をしっかり覚えて、その単語を文法規則に当てはめていけばきちんとできるようになるはずです。

 

2.実際の言語はそうなっていない

しかし、Taylor の The mental corpus ではそうはうまくいかない例がふんだんに取り上げられています。

一例として、第2章で取り上げられている「副詞+with+名詞」構文を取り上げます。

On with the show! 「ショーを続けろ!」

などの構文ですが、この構文には様々な制約があります。

・on, off, in  などの一部の副詞しか使うことができない(beyond, across などはダメ)
・名詞はtheが付いたような特定のものが好まれる(が絶対というわけではない)
・組み合わせや文脈によって副詞の解釈が変わる(On with the show! ショーを続けろ!」なのに On with your shoes! 「靴を履け!」)
・スローガンなど特定の状況でしか使えない表現が多い(が様々な状況で使えるものもある)

さて、この構文はどのような「文法」で覚えて行けばよいでしょうか?特に「特定の状況でしか使えない」ことを説明する文法規則はありますでしょうか?

実際問題これをうまく説明する文法規則を整理するのは非常に難しいです。

そのため

「副詞+with+名詞」という構文はあるが、1つ1つの表現はそれぞれ別のものとして、個別に文脈や用例の中から覚えていくしかない

ということにならざるを得ません。

 

3.日本語の例

わかりやすいように私の考えた日本語の例も挙げておきましょう。

静かな部屋

のように、「な」で終わる形容詞(ナ形容詞、または形容動詞)は

ナ形容詞(形容動詞)+名詞=名詞句

という組み合わせで使用します。

それでは、「閑静な」という単語を例に、以下の表現をご覧ください。

閑静な住宅街
閑静な街並み
閑静な眺め
閑静な部屋
閑静な教室
閑静な職場

閑静な風呂
閑静なトイレ
閑静な生徒たち
閑静な飛行機
閑静な工事

人によって違いはあるかもしれませんが、下の方に行くにつれて徐々に不自然な感じがしませんでしょうか。(一方、「閑静な」ではなく「静かな」だったら全部自然に感じるはずです)

実際、Googleで検索してみると、「閑静な住宅街」は700万件も検索結果が出ますが、「閑静な職場」あたりになるとせいぜい2、3万件、「閑静な工事」に至っては0件でした。

それではこの「不自然さ」を説明する文法の規則はありますでしょうか。

たとえあったとしても「『閑静な』という単語は〇〇タイプの単語と一緒に使うことが多い」という、個別の単語の説明にならざるを得ないと思います。

つまり、「ナ形容詞(形容動詞)」というくくりで文法を覚えるのはおおざっぱすぎて、「静かな」と「閑静な」は用法が違うので個別にどんな状況でよく使うかを覚えていく必要がある、ということです。

結局、「単語+文法」というアプローチで外国語を学習していると、

ナ形容詞(形容動詞)と名詞を組み合わせればいいんだから、「閑静な工事」って言えますよね。

のような不自然な表現を連発するような学習者になってしまいかねない、ということがわかると思います。

 

4.まとめ

今まで見てきたことから、言語は「単語+文法」モデルではなく、それぞれの表現がどのような状況でどのような単語と一緒に組み合わさって使われるかを用例に触れながら学習していく必要があることがわかると思います。

第二言語習得理論では

「大量のインプットが何よりも大事」

ということをよく強調します。これはまさに、個々の表現の用法に頻繁に触れていくことが外国語学習に必須であることを示しています。

もちろん、文法学習が無意味というわけではありません。

何もわからない最初の段階では文法学習で大まかな規則を覚えていくことが最重要ですが、ある程度の知識を身に着けた後はできるだけ早く「大量のインプット」(大量の読書やリスニング)に移っていく必要がある、ということだと思います。

ある程度の文法知識を身に着けた後にさらに文法の学習ばかり続けるのは本当にやめた方がよく、できるだけ早く「多読、多聴」という学習法に移っていくことが、外国語学習にとって重要である、ということをわかっていただけるととてもうれしいです。

 

 

at 2022/02/24 18:07:51